四角く切り取られた窓が一つ。
そこからは外が見える。
草があって、木があって、花があって、空があって、唯一無いのは“果て”くらい。
なんてうらやましい世界だろう。
四角く切り取られた窓が一つ。
そこから中に僕はいる。
白くて、狭くて、地面も天井も無くて、本当に白くて、唯一あるのは窓くらい。
なんてつまらない世界だろう。
僕はここから出ることが出来ない。
すぐそこに外の世界があるのに。
窓は頑丈でいくら叩いても傷一つ付かない。
出して。
僕を出して。
ここから僕を出して。
外の世界を見させて聞かせて感じさせて。
そうすれば僕はきっと――
なにしてるの?
声がした。
甲高くて少し舌足らずな感じがする声がした。
いた。
窓の外に女の子がいた。
窓に手を着いてこっちを見てる。
貴方、誰?
ぼ、ぼぼボクは、
あははははっ、面白いの。
ねぇ、お話しましょ。
私、貴方のお話が聞きたいわ。
――僕は、少女と出会った。
女の子は暇さえあれば僕の所へ来た。
始めは僕のことやこの部屋のことを話していたけどすぐに話すことが無くなってしまった。
そのことを正直に言うと少女はふんわりと笑って、
なら、今度は私のお話を聞いて?
嬉しそうに語りだす少女を見て僕も嬉しくなった。
草のことと、木のことと、花のことと、空のことを話す女の子はとても楽しそうで。
僕は多分笑いながらそれを聞いていた。
あのね、あっちの方にね、見てるととても落ち着く葉っぱがあるの。
草のこと。
あのね、あっちの方にね、いーーーっぱい実を付けたおーーーーっきな木があるの。
木のこと。
あのね、あっちの方にね、匂いを嗅ぐと眠くなるお花があるの。
花のこと。
あのね、あっちの方にね、ずーっと形の変わらない雲があるの。
空のこと。
あのね、あっちの方にね、立って歩く草があるの。
草のこと。
あのね、あっちの方にね、お話する木があのね。
木のこと。
あのね、あっちの方にね、見るたんびに色が変わるお花があるの。
花のこと。
あのね、あっちの方にね、きっと私の見たこと無い色の空があると思うの。
そして気付いた。
少女も僕と同じなんだということに。
少女はいつだって草と木と花と空の話しかしなかった。
それしか話すことができなかった。
外の世界に唯一無いと思っていた“果て”がそこにはあったのだ。
あのね、あっちの方にね、
だから女の子は僕に話しかける。
変わらぬ世界で唯一つ変化する僕に。
あのね、あっちの方にね、
だから僕の白くて狭くて地面も天井も無い部屋に興味をもった。
窓を隔てた世界が楽しかったんだ。
あのね、あっちの方にね、
だから少女は泣きながら話す。
窓の向こう側も同じ世界だと気付いて。
あのね、あっちの方にね、
だから外へ出よう。
窓の向こう側もこちら側も越えて外に出よう。
――――行こうっ。
白の世界は崩れた。
窓だけが残った。
どこへ?
草が、木が、花が、空が、
僕が、少女が、窓が、
僕らの知らない世界へッ!
崩れ落ちていく世界の中で、
僕は確かに少女の手を―――――
by kyo-orz
| 2005-02-22 05:27
| Kyoの30分創作